2020年06月07日

印象違う「健康的な」『正義と微笑』(『パンドラの匣』太宰治(新潮文庫))

先日、紹介した『さよなら寺山修司追悼特別号』で、再掲されている三島由紀夫との対談(1970.7『潮』より)で、太宰治について述べられています。
三島由紀夫の自信へつながる前段で「太宰治が体操やれば思想が変わったろう」ということで今も思っているかと寺山修司が訪ねられ、三島は「いまでもそう思っている。」と答えてます。三島の「太宰嫌い」は有名です。

三島はボディビルを行い、肉体改造を行い、一方、太宰は酒とタバコ、そして薬物(これは仕方ない部分もあったのですが)に頼らざるを得ないいわば「対極の2人」です。

しかし、太宰にも健康的と思える作品はあります。その代表作のひとつが、『正義と微笑』実際の日記を元に、太宰が創作した作品で、思春期の自然な、健康的な内容です。「微笑をもて正義を為せ」は太宰には出てこなさそうな言葉。明るめの代表作では「走れメロス」や「グッドバイ」があげられますが、青春の1ページが綴られていて、太宰の印象を変えます。

一方、三島由紀夫は太宰の対極に有るように見えますが、檀一雄のエッセイ集『海の泡』の「三島由紀夫」では、学習院時代と大きく変わったことが綴られています。

三島は太宰の中に、過去の自分を見た嫌悪か、変わらなくていい太宰を羨ましくおもったのか、それとも太宰を憎む事で自分の軸を持ち続けようとしたのか、そんな単純でもないでしょうが、直接あったことが一度しかない2人がこのような状況になってしまうのか、強い光をもった2人だったからもしれません。

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今回の『海の泡』(講談社文芸文庫)はここで購入しました。
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2020年06月05日

他人の関心とは『三島由紀夫レター教室』三島由紀夫(ちくま文庫)

寺山修司は、歌人とともに有名な劇作家です。その寺山修司と対談したのが、
三島由紀夫。(1970.9『潮』『言葉が眠るとき、かの世界が目ざめる』)
寺山は三島に「書けないという世界は何ですか?」と聞いている。
三島は、「ぼくはないと、自信をもっている。」「書く気になって調べれば、
絶対自信ありますよ。」(『さよなら寺山修司追悼特集号』新書館より)
三島由紀夫というと『潮騒』『金閣寺』など三島独特の美についてのイメージが
ありますが、この『三島由紀夫レター教室』は
ある意味、一般的な三島のイメージとは違う世界であり、
(三島由紀夫の根幹でないかもしれないが)
三島由紀夫は書けない世界はないといった一面を見ることができます。

登場人物はやや時代を感じさせる名前や最初の説明だが、読み始めると
生き生きした登場人物の「手紙」にどんどん引き込まれて行きます。
当初、この人物は、どうなの?と思う人も、どうしてどうして、まるっきり違う印象を持つ事でしょう。

そして、この作品は手紙を通して「関心」というもの、それも自分への関心、他人への関心について鋭く描きます。
最終章は必読。一体いつの事だ?三島は生きていたのか?とうなります。

特に「他人は決して他人に関心を持ち得ない」という三島の言葉が突き刺さります。だからこそ、この「手紙」はどんな意味をもつのか。この本を読んで、皆さん体感していただければと思います。

さて、紹介した『さよなら寺山修司追悼特集号』では、寺山修司との対談で、
三島のその後を予感させる内容が記載されています。
この後、三島の決起、そして自決を寺山は分かっていたのか。

謎はつきません。

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今回の『さよなら寺山修司追悼特別号』(新書館)はここで購入しました。
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2020年06月04日

願うべき日常の週末『競馬への望郷』寺山修司(角川文庫)

前回、純粋に平松洋子さんのエッセイが読める日々を祈っている話をしました。
今回、新型肺炎で食べる時に当たり前の、「何を」「誰」と「どこで」食べるか?が制限されている、
日常の大事さを痛感してます。
食べるだけでなく、文化や娯楽に対しても同様かと。

本で例えるならば、大阪の景色をじんわりと浸る織田作之助『夫婦善哉』や
新しくは京都を颯爽とかけめぐる森野登美彦さんの『夜は短し歩けよ乙女』など
本を読んでから景色を味わいに行くか、
景色を堪能してから、本の世界に入るかなどをいろいろと考えますが、
今の状況ではそれも難しい。

そんなことを思いながら、ふとテレビを見ると、競馬のG1レースが。
競馬も大事な文化(スポーツ)であり、娯楽。
でも、それは様々な人が様々な思いや状況を持ち寄って、成り立つもの。
無観客のレースがこんなに張り合いがないなんて。

寺山修司の『競馬への望郷』の『さらば、ハイセイコー』は、
様々な人生を様々な人が持ち寄り、ハイセイコーとの絆を詠う名作。
また、同本の『騎手伝記』では騎手の悲喜こもごもの人生を
寺山修司の名エッセイを味わうことができます。
どこも文化や娯楽があるところは、人がいなくては。

『競馬への望郷』は、競馬に想いを馳せる、
そして昭和50年代に生まれたこの本は、
駅に明るい広告が打ち出されている「KEIBA」ではなく、
ちょっと影がある、悲しみもある、
もちろん、その中に栄光がある、
裏通りの居心地の良さ、その中に差す光を感ずることができます。

昔が良かった、今の方がいいではなく、
良くも悪くも競馬が歩んで来た歴史とそれを取り巻く人生を体感できます。

文化や娯楽のあるところは人がいなくては。
そこで起きたことを誰がそれを伝えて行くのか。
いや「起きなかったことも歴史のうち」と思うのか。

今日も私は新型肺炎の収束を祈るしかない日々を過ごしてます。

現在、『競馬への望郷』は
一部の寺山修司の全集などで見る事ができますが、文庫本は古書のみになります。

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